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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)95号 判決

原告主張の審決の取消事由の有無について検討する。

1 まず、本願意匠と引用意匠との形状について対比検討してみるのに、成立に争いのない甲第二号証、第三号証、乙第二号証の一、二によると、本願意匠も引用意匠もその形状は、共に縦長のやや偏平状の直方体であるが、その正面及び背面の横と縦(高さ)の長さの比は、本願意匠ではほぼ一対一・三であるのに対し、引用意匠ではほぼ一対一・八であることが認められ、このことにより、引用意匠は、本願意匠に比し、一見、より縦長の軽快華奢な感じを抱かせるものである。

2 次に、本願意匠と引用意匠とに施された模様及び色彩について対比検討する。

前掲甲第二号証によると、本願意匠は、後記の図形部分を除いて箱体全体が明るいクリーム色に表され、箱体の正面と背面とには、それぞれそのほぼ上半分に上辺と左右の各辺の端部から若干の距離を隔てた箱体の高さの約三分の一に相当する高さの横長長方形の図形が、黒に近い濃暗色で表示され、その上部及び下部にはそれぞれ若干の間隙をおいて(すなわち、地色のクリーム色の部分を介在させて)各一条の赤茶色でかつ下方のものが上方のものよりもやや幅広の前記濃暗色の図形の横幅と同じ長さの細帯状図形が表示されており、また、箱体の左右両側面には、何らの模様も表示されず、前記のクリーム色の地色がそのまま表されたものであることが認められる。

これに対し、前掲甲第三号証、乙第二号証の一、二によると、同各号証が引用意匠に係る包装用箱の斜め前のやや上方から撮影した写真である関係上、箱体の正面と一方の側面及び平面(上面)の三面だけが写し出されているにとどまり、その余の面を直接に知ることができないので、右三面の状況から経験則に徴しその全体の模様、色彩を推認するほかはないが、これによると、引用意匠は、正面、背面及び左右の両側面とも、ほぼその下半分と上辺に近い部分とはすべて青灰色に表され、この両青灰色部分の間の部分の上部と下部とには、それぞれ同じ幅の黒色の細帯状図形が表示され、この二条の細帯状図形に挟まれた部分は白色に表されていること、少なくとも平面も青灰色に表されていることが認められる。

そうしてみると、本願意匠と引用意匠とでは、ただ箱体の正面及び背面における模様(色彩を除外した図形の構成)部分については若干の共通性が認められないわけではないが、これとても、本願意匠では、右模様が左右両端部近くで終り、両側辺と右模様との間には若干の間隙があるほか、右の黒に近い濃暗色の図形とその上、下部の各細帯状図形との間にも若干の間隙があり、これらの間隙が色彩のコントラストにより看者の視覚に訴える点で、引用意匠と相違しているばかりでなく、両意匠の各図形及び地色に用いられている色彩は、全く相違しているのであり、更に、箱体の側面についてみると、引用意匠では、前記のとおり、正面と同一の色の帯が箱体全体を水平に巻いているので、側面の模様、色彩が正面のそれと同一であるのに対し、本願意匠では側面には何らの模様がなく、全体がクリーム色の地色で表されているのであつて、両者の間には一見して著しい差異がある。

この点について、被告は、意匠としては正面のデザインが主要部であつて、背面や両側面は殆んど重要ではない旨主張する。しかし、意匠に係る物品である包装用箱についてみると、箱体の正面だけが人の目にふれるということはむしろ少なく、右物品の性質上、様々な態様で陳列されたり、手にとつて観察されることなどが極めて普通に行われることを考えると、意匠としての類否を判断するに当つては、正面の構成のみを勘案すれば足りるものともいえず、両側面、背面の構成等も十分看者の注意を引くものであり、これを考量すべきものであることはいうまでもない。

3 以上、1、2において述べた本願意匠と引用意匠との形状、模様及び色彩上の相違点を併せ勘案し、両意匠を全体として対比すると、本願意匠は引用意匠と類似しないものとするのが相当であり、これを類似するとした審決の判断には誤りがあるというべきである。

なお、被告は、乙第一号証の一ないし三を提出して、色彩の相違は意匠の類否の判断に当り左程重要でない旨主張するが、形状や模様(図形)が同一又は極めて類似する場合などについては、被告の右主張も考慮すべき場合がないではなかろうが、本件においては、既に形状や模様(図形)について前述のとおりの差異があり、乙第一号証の一ないし三に示された意匠は本件に適切ではなく、被告の右主張は、採用できない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「包装用箱」とする別紙(一)(〔編註〕省略)の図面代用写真に示す通りの構成からなる意匠(以下「本願意匠」という。)につき、昭和五一年四月一九日意匠登録出願をしたところ、昭和五四年一月三一日拒絶査定を受けたので、同年三月二六日これに対する審判を請求し、特許庁昭和五四年審判第三二四四号事件として審理されたが、昭和五六年二月一六日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、同審決の謄本は、同年三月一一日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

本願意匠の要旨は、基本形状が、縦長直方体の箱体正背面の上半分に、二本の細帯で挟まれた横長長方形の図形を表した構成であり、この箱体は、全体が明るいクリーム色で、その正背面上半分の部分に横幅ほぼ一杯に高さが箱体高さの約三分の一の横長長方形の図形が黒に近い濃暗色で表され、その上下に図形を挟むようにして、やはり同じ横幅で上の方がやや細い二本の茶色の細帯が、図形との間にごく僅かな間隙をあけて表された態様である。

これに対し、特許庁受入昭和四四年三月三一日の外国雑誌「UBERSEE POST, CONSUMER GOODS EDITION」一九六八年八月号の表紙所載の包装用箱の意匠(以下これを「引用意匠」という。)は、基本形状が、縦長直方体の箱体正面、右側面の上半分に、二本の細帯で挟まれた横長長方形の図形を表した構成であり、この箱体は、全体が明るい青灰色でその正面から右側面へかけての上半分に高さが箱体高さの約三分の一の横長長方形の図形が白で表され、その上下に図形を挟むようにして二本の黒色の細帯が表された態様である。

そこで、両意匠を比較すると、両者は、まず縦長直方体をした箱体の正面などの上半部に、二本の細帯で挟まれた横長長方形の図形を表したという基本形態において酷似し、更に、その図形が正面において占める位置と面積、それを上下に挟んだ二本の細帯の態様などにも共通点が認められる。

もつとも、両者の間には、二本の細帯と図形との間のごく僅かな間隙の有無、側面における図形と細帯との有無といつた相違があるが、前者はごく細いものであるから目立つ程のものではなく、また、後者も箱体の側面という位置であるから要部における相違とはいい難く、いずれも部分的相違にすぎない。

このように、右共通点によつて醸成される両意匠の意匠的まとまりは、相違点を凌駕し、両意匠は、全体として互いに類似するものと認められる。

よつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号の規定によつて、登録を受けることができない。

三 審決の取消事由

本願意匠と引用意匠との間には、以下に述べるとおり、形状、模様、色彩の点でいずれも顕著に相違するのに、審決は、これらの点を誤認又は看過して、両意匠が類似するとの誤つた判断をしたものであるから、違法として取消されるべきである。

1 形状について

本願意匠は、箱体正面の縦辺が僅かに横辺より長いほぼ正方形に近い安定した形状であるのに対し、引用意匠は、箱体正面の縦横比が一・八八対一の細長い長方形であり、スマートで華奢な形状である。しかるに、審決は、両意匠の形状を同一であるとの趣旨の認定をしたのは誤りである。

2 模様について

引用意匠の地色は、暗い青灰色であり、また、その上半分には広幅白色の帯模様が一周して描かれ、この白色帯模様と対比して箱体全体は暗い青灰色であり、箱体の暗色に対し帯模様が強いコントラストを呈している。

一方、本願意匠は、箱体全体が明色であり、上半分の長方形模様は黒色に近い濃暗色模様であり、箱体全体の明度と上半分の長方形の濃暗色模様は、引用意匠とは逆のコントラストを呈している。

しかるに、審決は、右の点を看過している。

また、引用意匠では、箱体上部の白色模様は、正面から側面へ連なつて、箱体を一周しているのに対し、本願意匠では、箱体上部の模様は正面と背面とのみに描かれ、両側面は無地である。しかして、包装用箱の場合真正面から見ることは稀で、通常は掌に乗せて斜めの方向から眺めることが多いから、右のような模様が、箱体を一周しているか両側面で断続しているかは重要な点である。しかるに、審決がこの点を軽視しているのは誤りである。

3 色彩について

本願意匠は、箱体全体が明るいクリーム色で、箱体正面及び背面の長方形模様は黒に近い焦茶色、長方形模様の上下の帯線模様は赤茶色に表され、クリーム色、焦茶色、赤茶色の三色構成である。

これに対し、引用意匠は、箱体全体が暗い青灰色で、箱体の上半分の帯模様は白色、細線は黒色で構成され、青灰色、白色、黒色の三色構成である。

しかるに、審決は、このような両意匠の色彩の相違について言及していない。

第三 被告の答弁

一 請求の原因一、二の事実は認める。

二 同三の主張は争う。

1 原告の1の主張について

本願意匠の箱体正面の縦横の比は、一・三対一であり、引用意匠のそれは、一・八対一である。しかし、このような計測数量を挙げてその差を論ずることは余り意味がない。何故ならば、本願意匠と引用意匠とは、共に縦に長い長方形という点で共通の印象を受けるのであり、長方形のプロポーシヨンに多少の相違があつても、それは看者に別異感を与える程のものではないからである。したがつて、両意匠の形状が極端に相違するとみるのは、誤りである。

2 原告の2、3の主張について

明暗、濃淡など調子のコントラストの点と色彩とは密接な関係があるので、一括して反論する。

通常、ある物品特に家庭用雑貨類を購入する場合、購入者は、まず価格や機能を考え、次にスタイリング(色彩や模様を含まない形状についてのデザイン)を、更に色彩や模様を考慮して選択するであろう。そして、色彩は、スタイリングよりも人間の感覚に直接的かつ情緒的に訴えかけるので、その好みも複雑で、多数の人を満足させることができない。そこで、同じパターンでもその配色を変えることにより、多数のバリエーシヨンを作り出し、多くの購買者の趣味嗜好に応えようとする。そのために、同一のスタイリング、同一のパターンの模様に色のバリエーシヨンを施すことは、ごく普通に行われるところであつて、その場合、購買者は、色彩が変化したからといつて、デザインそのものが変つたという認識を通常持たないものである。

更に、包装用箱についてみると、内容物を取り出した後には、箱は捨てられてしまう場合が多いから、箱の模様や色彩は、購買時点での識別性という役割が強いものである。

化粧品の包装用箱を例にとつてみると、ある会社が、一連の化粧品を販売する場合に、まずデザインで統一し、次に化粧品の種類によつて色彩を変えるという方法がしばしばとられる。例えば、乙第一号証の一ないし三にみられるように、柳屋ポマードは、使用している香料の別によつて製品を三種類に色別けしている。すなわち、「ジヤスミン」は薄緑色の地に濃緑色の模様、「クレマチス」はクリーム色に濃茶、「ナリシヤス」は浅葱色に濃紺というように、全く同じ模様のパターンで三種類のポマードを統一し、これらの色別けで香りを識別できるようになつている。このように購買者にとつて、色彩が変つたからといつて、デザインそのものが変つたとは通常思わないのであり、したがつて、同一のデザインの色変りというものは、意匠としては類似のものというべきである。

また、包装用箱は、例えば置物や食器類などのように、常に身辺におき又は手にとつて眺めたり使用したりするものではなく、陳列する場合には箱どうしを密着して多数個並べるのが通常であり、背面や左右側面は殆んど重要ではなく、正面のデザインが主要部というべきであつて、正面が類似していれば他の面が多少相違していても、意匠としては類似しているとすべきである。

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